芦沢 啓治氏が考える、
ハンガーラックのあり方
「TRE・DUE」デザイナー
建築家 芦沢 啓治氏インタビュー
Photography & Text : 加藤 孝司
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建築家の芦沢 啓治氏が手がける家具には、
いわゆるデザイナーがつくる家具とは
異なる面白みがある。
それは建築には欠かすことのできない
構造の確かさであったり、
これは芦沢さんの独自の感性が
生み出すものかもしれないが、
端正な家具の佇まいや表情であったりする。
DUENDEの新作は
そんな芦沢さんがデザインした、
親子で使うことができるハンガーラック
「DUE」である。
そのDUEが生まれた背景を中心に、
芦沢さんのものづくりの
プロセスについてお話をうかがった。
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親子で使えるハンガーラック
-DUEの大人と子供が一緒に使える
ハンガーラックというコンセプトが新鮮でした。
それはどのように発想されたのでしょうか?
ハンガーラックの役割には、服をきれい掛けることや、
パーテーションになるなどいくつかあります。
日本においてはそもそもハンガーラックを
部屋の中に置かなければならないという
住環境の問題もあると思っています。
ですがクローゼットの中にしまっているよりも
服を取り出しやすいという利点があり、
服を隠したくないという人も当然いると思います。
そのためには普段は隠れているものが
表に出てきたときに、
生活の風景にきちんと
馴染むものである必要もあります。
同時にそうでもあるならば、
最大限の収納ができるものを
デザインするのが私たちの
仕事だろうということから考え始めました。
最初はハンガーを引っ掛けるラックがあって、
その下に収納ケースが
置けるようなものをデザインしていたのですが、
でもそういうものはすでに世の中にたくさん存在して
いますし、DUENDEであえてそれをつくる必要も
ないだろうと思いました。
それで試作を前に打合せをしていたときに
お互い小さな子供がいて、
子供のためのクローゼットって
なかなかないよねという話になりました。
それで上に子供の服、下に大人の服を
掛けることができる2段のハンガーラック
というDUEのアイデアが生まれたのです。
-
とても面白いですね。
それを実際そのように
使っていただけるかどうかは分かりませんが、
親と子供が一緒に使えるような
環境装置としてのデザインを
することができればと考えました。
それはもしかしたら親子の関係性にも
影響を与えるような、
単なるプロダクトではなく、
コミュニケーションツールにも
なるかもしれません。
もちろん大人が使うことができる
フレキシブルさも兼ね備えた
ものである必要もありました。
-家の中に親の服と子供の服が一緒に掛かっている
ハンガーラックがあるという、
その風景が素敵だなあと思いました。
ありがとうございます。
これが成立するのは、
親と子の関係のあり方も含めて、
その関係が対等であるという状況が受け入れられる、
今という時代背景も関係しているのかなと思っています。
そう考えたときにそのような
プロダクトは今までありませんでしたし、
そこをきちんと考えていこうということから
DUEをデザインしていきました。
それで部屋の中に
インテリアのひとつとしてあるもの、
子供も一緒に使うものと考えたときに、
無骨なものではなく、
形や素材も含めて
スマートなものである必要があるだろうと考えました。
DUE(2016)
省スペースに親子で使うことができる。
ワイドが600と800があり、連結も可能。
-確かに、DUEの木とスチールの組み合わせひとつとっても、
存在としての軽やかさを感じました。
そうなんです。
全部スチールだとやり過ぎな感じがありますし、
部屋の中に置かれるものなので
柔らかい感じが必要だと思っていました。
それとハンガーラックって金属製のものが多く、
ハンガーを掛けるときに、
金属音がしがたちだと思うのですが、
DUEの場合はハンガーを掛ける部分が
木になっていますので、
ソフトに服を掛けることができます。
つまりクローゼットの中では許されていることが、
外に出てくることで
考えなければならないことがあるということです。
例えば、コンピューターが
オフィスにあるときは角ばった
四角い形でも良かったのですが、
それが誰もが使うようになって、
家の中に入ってくるようになると、
今のような優しいシルエットに
近づいていったわけです。
そのことはハンガーラックにも言えると思っています。
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DUENDEにおけるものづくり
-
DUENDEとの出会いを教えてください。
2010年に自社で「Prototype」展をしたときに、
3つのパイプをジョイントすることができる
「Pipeknot」という家具シリーズの
プロトタイプを展示したことがありました。
少しデザインは違いますが、
その時に発表したもののひとつが
先ほどのTREの原型になったものでした。
その際にDUENDEのプロダクトとして
製品化したいとお声がけを
いただいたのがきっかけです。
そのころから建築だけではなく、
家具やプロダクトデザインの仕事も
していたのですが、
当時は海外のブランドにしか目を向けていず、
ヨーロッパのブランドと
ものづくりをしたいと思っていて、
国内のメーカーにはあまり目を向けていませんでした。
ですが熱心にお声がけいただいたこともあって、
ご一緒させていただくことになりました。
TRE(2011)
3本の木材を組み合わせる金属パーツに特徴がある
サイドテーブル。金属のジョイント材に支えられた
独特のバランス感覚が美しい。
-
DUEの場合は、どのようなプロセスで
製作されたのでしょうか?
DUENDEでものづくりをする際には、
ディスカッションをしながら進めていくのですが、
最初のプロトタイプ制作から
ここに来るまで11ヶ月くらいの時間をかけています。
それとDUENDEは比較的
金属素材で作ることを得意
としているブランドという印象がありましたし、
逆に全部木材でつくるとコストが跳ね上がってしまう、
そこらへんのバランスはいろいろと考えました。
ですが、DUENDEはエンジニアリングが
きちんとしていて、
どんな素材を使ってもいい形に
おさめることができる家具ブランドです。
DUEは以前にDUENDEで
手がけたサイドテーブルであるTREと同様に、
金属と木材の組み合わせで
構成される家具ですが、
その組み合わせもうまくいきました。
私自身金属加工の仕事を
していたこともありますので、
製造プロセスにおけるやり取りもスムーズでした。
-今回は大人と子供が
一緒に使うことができる家具ですが、
大人と子供の境界線についてはどのようにお考えですか?
家具という視点からいえば、
家具において作り手が目指す耐久時間と、
子供でいる時間のスケールが
マッチしていないと思っています。
私はつねづねタフなものが作りたいと思っていて、
子供のための家具であったとしても、
大人になっても使えるもの、
あるいは背伸びをすれば子供も使うことができて、
大人も十分に使えるものを
デザインするべきだと思っています。
いわゆる子供らしいものも悪くはありませんが、
ものづくりという意味では
どちらかといえばそのほうが
正しいのかなとは思っています。
そもそもが大人と子供の境界線は曖昧ですし、
子供用だから安全のために
角を丸くすればいいという単純な話でもありません。
作り手もユーザーも、いかにそこに
広がるであろう景色をともに
想像することができるかということが
家具の楽しさに繋がっていると思っています。
そういった意味ではDUEは、
オートクチュールの服から
子供用のカジュアル服までが
掛かっていることをイメージしてデザインしています。
ですのでこれからDUEを気に入って
購入してくださった方が、
どのように使って下さるのかとても興味があります。
これまで芦沢さんがコラボレーションしてきた
イケアや石巻工房など、
DUENDEが他のメーカーと
異なる点はどんなところですか?
DUENDEは生真面目な仕事の
取り組み方をするブランドだと思っています。
目指しているところがはっきりしていますし、
そこにきちんと届けられていて、
その届け方がスマートであるという印象をもっています。
家具のサイズ設定やフラットパックが
できる配送の仕方ひとつとっても
DUENDEらしいスタイルがあります。
時にそこが制約に
なってしまうこともあるのですが、
デザイナーとしてはそこから
始まるデザインもあると思っています。
-芦沢さんご自身はDUENDEの
どんなところをイメージしてデザインをされていますか?
都会的でありながら、
いい意味であまり気張らない
等身大のデザインですね。
それと現代においては、
家具を買おうというときに、
ひとつのブランドのお店に行って
すべてを揃えて、
というような時代ではないと思うんです。
どちらかといえば、
家の中を見渡してみて、
次はこんなものがあったらいいな、
という形で家具を選ぶのが
現代の感覚に近いと思うんです。
でもどうせ買うならデザインも
クオリティもいいものを買いたい、
という時にお客様が選ぶのが
DUENDEの家具だと思っています。
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人の環境をデザインする家具
-
DUEをデザインをする上で
こだわったところを教えてください。
部屋の中に出てくるものという意味では
デザインする上で責任がありますよね。
まずは部屋の中にあっても
空間に馴染むスマートなデザインであること。
それとハンガーラックは
服を掛けるという用途をもっていますから、
次第に洋服の山のようになっていきます。
それはそれでアリなのですが、
そのようになっても雑然としないような
デザインを心がけました。
それとそれがもっているストラクチャー
(構造あるいは機構)が
部屋の雰囲気を壊すほど
強すぎてもいけません。
それがあることで生活を整える
機能性に加えて、
生活にやわらかく馴染む
ハンガーラックが欲しいと思っている
人にとっての選択肢のひとつになれば
と思ってデザインしました。
-芦沢さんのデザインする家具には、
例えば空間の一部としてのインテリア、
あるいはそれとは間逆にあるような、
空間からは自立したある種
アートやオブジェとしての存在感のある家具、
その二つのイメージを感じます。
それは嬉しいですね。
デザインする以上は機能を
伴った上での美しさは求めています。
そのためにはDUEもTREもそうですが、
どれだけ構造を削ぎ落とすことが
できるかということはつねに考えています。
無駄なものはノイズだと思っていて、
それを排除することで凛とした姿が
立ち上がってくるものをつくりたいと
いつも思っています。
SUTOA(2011)
現在コペンハーゲンのメーカー「FRAMA」で製造・
販売されている鉄のフレームとウッドのトレイで
構成された家具。分解して収納、輸送することができる。
-
芦沢さんにとって、建築と
家具にはどのような関係性がありますか?
建築を考えるときには、
周辺の環境から考えていくことが
基本としてあります。
家具のデザインの場合は、
家の中のどこに置かれるのか
というところから考えていきます。
デザインの構図としては周辺の環境を考え、
それがどうあるべきかを考える
という意味では建築も
家具のデザインも共通しています。
そういった意味では
「環境をつくる」ということを
建築でも家具でも同じように考えています。
ただ家具のデザインが気持ちがいいのは、
建築と違ってたとえれば
一枚の絵の中におさめられる
楽しさがあると思っています。
-
最後にDUENDEに期待すること、
DUENDEのラインナップにおいて
今後デザインしてみたい
というものがありましたら教えて下さい。
家具メーカーとして
10年以上の歴史を重ねてきており、
当時のユーザーも一緒に歳をとってきています。
その時間の中でDUENDEが
ターゲットとする都市生活者
というもののあり方の見直し、
それとニッチとは言わないまでも
さらなる上質化など
取り組むことはあると思います。
ですが生活を影から支える
DUENDEのブランドとしてのあり方は
まさにその通りだと思っています。
これまでDUENDEが
つちかってきたお客様も
そんな感覚をともに共有したいと
思っているはずです。
私としてはそこでのものづくりを
DUENDEとしてこれからも
お手伝いできればと思っています。
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芦沢 啓治
建築家。1973年東京都生まれ。
2005年、芦沢啓治建築設計事務所設立。
建築からプロダクト、家具のデザインなどを手がけ、
国際的に活躍する。
石巻工房にも代表として携わる。
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